勝海舟

心は明鏡止水のごとし、といふ事は、若い時に習つた剣術の極意だが、外交にもこの極意を応用して、少しも誤らなかつた。かういふ風に応接して、かういふ風に切り抜けうなど、あらかじめ見込を立てておくのが、世間の風だけれども、これが一番わるいヨ。おれなどは、何にも考へたり目論見たりすることはせぬ。ただただいつさいの思慮を捨ててしまつて、妄想や雑念が、霊智を曇らすことのないやうにしておくばかりだ。すなはちいはゆる明鏡止水のやうに、心を磨ぎ澄ましておくばかりだ。かうしておくと、機に臨み、変に応じて事に処する方策の浮び出ること、あたかも影の形に従ひ、響の声に応ずるがごとくなるものだ。

『氷川清話』

 

参照:http://shiokawatakao.blogspot.jp/2014/11/2000.html

参考:明鏡止水 - 故事ことわざ辞典

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2016/02/13/232403