下條信輔

現代社会と現代人のさまざまな不合理や理不尽は、情動と潜在認知というキーワードで読み解くことができそうです。
現代人は、過剰と誘導と操作と制御とに晒されています。マスメディアと大衆誘導技術の発達が、潜在認知というパンドラの函を開けてしまいました。集合的、情動的、反射的、無自覚的という特徴を持つチャンネルが、解放されたのです。
コマーシャリズムの世界では、脳内の報酬系がターゲットにされ、政治の世界では情動系、ことに恐怖の中枢(たとえば扁桃核)が狙われています。私たちはそれに対して(定義上)無防備です。その結果、近代社会の根幹をなす「自由で責任ある個人」の理想像がゆらぎはじめています。
自覚して立ち止まる余地が乏しいぶん、意識レベルの倫理コードは役に立ちません。こうして善悪の境界が溶融し、自由と(被)制御とが両立するグレーゾーンが野放図に拡大してゆく。そういう時代を、私たちは知らず生きはじめているらしいのです。これが本当に危険なのかどうかさえ、定かではありません。
ただ唯一対抗し、防衛できる策があるとすれば、まずは情動と潜在認知の仕組みを知ることです。そして知るだけではなくて、潜在レベルで対抗する策を自覚的に講じることです。

『サブリミナル・インパクト』(p.236-237)

 

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