長谷川英祐

動物の社会に共通しているのは、不完全な個体から完全な群体が進化したのではなく、完全な個体から不完全な群体が進化したという流れです。

複数の個体が集合して暮らすコロニーという群体。遺伝的に不均質な個体が協力するそのシステムが、個体の適応度を最大化するという進化の法則とあいまって、裏切り、抜け駆け、なんでもありの個と群を巡る無限のらせんを描きます。個が立ちすぎれば群もろとも滅び、他者のために尽くせば裏切り者に出し抜かれる。この無限のらせんから逃れるすべはないのでしょうか。ここでもう一度、個体のなかの細胞群を思い出してみれば、可能性が見えてきます。
複数の細胞が集まって協同する多細胞生物では、たったひとつの受精卵が分かれて増えた遺伝的に均質な細胞が様々な器官に分化した結果、細胞間の進化的対立のない完全な群体を作ることに成功したのでした。ということは、個体が集まったコロニーでも、個体間に遺伝的差異がなければ、裏切りの根源である「誰が繁殖すると自分が得なのか」という進化的対立が生じないことになります。そんなシステムは不可能なように思えますが、事実は小説より奇なりというやつで、人間の思いつくたいていの現象は生物の世界に存在します。

『働かないアリに意義がある』(p.162-164)

 

参考:http://ushitaka7.blogspot.jp/2013/11/blog-post_15.html
http://ushitaka7.blogspot.jp/2013/11/blog-post_18.html

 

関連:http://hideasasu.hatenablog.com/entry/2015/02/25/190306