高橋恒一

時期ははっきりとは言えませんが、10年後以降、人工知能はもう1つの大きな壁に挑むことになるかもしれません。それは「言語獲得」の壁です。言語処理のための優れた人工知能技術の開発はこれまでも成されてきましたが、本当の意味で言語の意味を理解し、運用することは人間にしかできず、可能にする具体的技術はまだ生まれていません。この壁が突破できなければ、人工知能は再び忘れ去られる概念になるのかもしれません。
しかし突破できれば、おそらく人間ができる仕事のほとんどを自動化できるようになります。経済に対するインパクトは非常に大きなものとなり、既存の社会の常識が書き換えられるような変化すらも引き起こすでしょう。

 

こうなると、具体的に議論しなければならないことがたくさん出てきます。よく言われる“人間の職業の消失”です。受付業務や書類整理などの事務作業はもちろん、医師(診断業務)、弁護士や会計士など、高度な専門知識をベースとした判断・診断を行うことによって成り立つ職業は、人工知能に代替される可能性が大きくなります。10~20年以内にアメリカの労働市場の半分がコンピュータに置き換えられるという予想もあるほどです。
とはいえ「人であってほしい職業」は消失しません。大切なのは、これから起きるかもしれない変化を認識し、備えてゆくことではないでしょうか?

産業革命で機械化されたのは肉体労働でした。人工知能は知的労働を機械化します。科学研究は知的労働の最たるものです。つまり、論理的に考えれば人工知能の進歩がそのまま科学技術の進歩につながり、そのことで人工知能の性能がさらに向上するというフィードバックループが発生するのです。 “イノベーション”すらも人工知能が行うようになるかもしれません。

 

いわば“イノベーティブな人工知能”がもたらす恩恵は素晴らしいものになるでしょう。しかし、この人工知能革命に乗っていける国とそうでない国の間に起きる大分岐については慎重に議論する必要があります。経済が変われば社会構造や人々の考え方、政治も変わります。国家間のパワーバランスに変化が急激に起きれば、安全保障の問題にも発展するでしょう。私たちは、今から世界がどのように変わっていくのかを考えて行動していかなければ、また過去の悲劇、つまり多くの市民を危険にさらす戦争を引き起こす可能性もあるのです。そして日本もこの分野への投資で舵を誤れば、“持たざる者”にならない保証はありません。

最先端の人工知能開発者は今、何を考えているのか?

 

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